生活習慣病

生活習慣病について

生活習慣病は、過食や偏食、運動不足、嗜好品(タバコ・お酒など)の摂取過多といった不摂生な生活習慣が主な原因となって起こる疾患です。ほとんどが無症状で検診を契機に指摘されることが多く、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、高尿酸血症(痛風)などが組み合わせてみられることもあります。命にかかわるような病状に進行するリスクも高いのですが、一方で、生活習慣を見直すことによって自らの力で予防・改善できるのも大きな特徴です。

高血圧

高血圧自体には自覚症状がほとんどありません。耳鳴り、頭痛、肩こりといった症状を訴える方がごく稀にいますが、これらは高血圧が原因となる狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの症状の可能性もあります。高血圧のリスクは、血管に高い圧力が加わって動脈に大きな負担をかけ、こうした合併症を引き起こす動脈硬化を進行させることです。
高血圧には本態性高血圧と二次性高血圧があります。「本態性」とは、病気の原因が明らかでないことをあらわす用語で、「二次性」とは、原因となる病気や薬の副作用がはっきりしているものを指します。たとえば、腎臓病、ホルモンバランスの崩れる内分泌疾患、睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧を引き起こします。二次性高血圧は全体の10%未満です。これらは原因を取り除くことで治療できます。
高血圧の大部分は本態性高血圧だといわれていますが、その原因は生活習慣であったり環境要因であったりすると考えられています。塩分の多い食事の摂取や、運動不足、飲酒や喫煙などからくる高血圧です。遺伝的要因(高血圧になりやすい家系)も考えられます。ただこれも、同じ生活習慣を家族で共有していることによる環境因子とも考えられます。

動脈硬化検査

動脈硬化がどの程度進んでいるのかは動脈硬化検査CAVI(Cardio Ankle Vascular Index:通称キャビィ)で調べることができます。C(心臓)からA(足首)までのV(血管)の硬さのI(指数)という意味の検査で、心臓から出た脈波(拍動)が動脈を伝わる速度を測定することで、動脈の硬さを判断します。動脈硬化が進んだ血管では脈波が速く伝わります。
仰向けに寝た状態で両腕・両足首にカフを巻いて、血圧と脈波を測ります。5分程度で終わる検査です。

高血圧の治療

 血圧の記録と降圧薬の服用

まずは自分の血圧を知ることからはじめ、日々の血圧を記録(起床後1時間以内に、トイレを済ませてから1〜2分間の安静後に測定することをお勧めします)していくことが大切です。生活習慣の見直し(塩分制限や運動など)を改善されない場合は、各ホルモン検査、内服治療が必要となることもあります。降圧薬にはカルシウム拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE)、利尿薬、β遮断薬(含αβ遮断薬)、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬などいくつかのグループに分けられます。
日本高血圧学会のガイドラインでは

    • 75歳未満の成人、脳血管障害患者、冠動脈疾患患者、慢性腎臓病患者、糖尿病患者、抗血栓薬服用中・・・診察時血圧130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)
    • 75歳以上の高齢者、脳血管障害患者、慢性腎臓病患者・・・診察時血圧140/90mmHg未満(家庭血圧135/85mmHg未満)
  • 上記のような目標を目安としており、患者様において効果が期待できる負担のない降圧剤で血圧をコントロールします。降圧薬は血圧を下げますが、高血圧の原因を取り除く薬ではありません。医師の指示にしたがって、きちんと服用する必要があると同時に、生活習慣の改善が欠かせません。

生活改善

生活習慣を見直すポイントは、日本高血圧学会のガイドラインによると以下の6つです。

    • 食塩制限6g/1日
    • 野菜、果物の積極的摂取
    • 適正体重の維持(BMIで25を超えない)
    • 運動療法(有酸素運動を30分/1日)
    • アルコール制限
    • 禁煙

野菜、果物は腎障害の患者様や糖尿病の患者様の場合には推奨されないケースがあります。運動療法についても、心血管障害がないことが前提です。これらの障害を伴う方は、医師とよく相談して適切な対処をしてください。
また、このほかに睡眠・休養をしっかりとって、ストレスを溜め込まないようにすることも大切です。

脂質異常症

血液中の脂肪分はLDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)などに分けられます。この脂肪分の濃度のうち、いずれかが健康範囲を超えたものを脂質異常といいます。脂質異常症の診断基準は以下のようになります。。

  • 高LDL(悪玉)コレステロール血症 ≧140mg/dl(120〜139 mg/dlは境界域)
  • 低HDL(善玉)コレステロール血症 <40 mg/dl
  • 高トリグリセライド(中性脂肪)血症 ≧150 mg/dl

以前は高脂血症といわれていましたが、HDLコレステロールは値が高いほうがよいため、最近では脂質異常症と呼ばれるようになっています。
脂質異常であっても自覚症状はありません。おもにLDLコレステロールや中性脂肪が血管の内側に付着してプラーク(粥状のコブ)になると、動脈狭窄や動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こすリスクが高まります。

頸動脈エコー

首の血管に超音波を当て、頸動脈の動脈狭窄や動脈硬化の有無や程度を調べます。頸動脈は脳に血液を送る重要な血管であるために脳梗塞の病変の発見ができるとともに、全身の動脈硬化度の指針ともなります。10分程度の検査で、脳梗塞や心筋梗塞のリスクもある程度がわかります。

脂質異常症の治療

脂質異常症の生活改善

脂質異常症の治療の3本柱は、他の生活習慣病と同様に、食事療法、運動療法、および薬物療法です。脂質は食事から摂取されますので、食事療法がとても重要になります。
高LDLコレステロール血症(悪玉コレステロールが多い)方は、肉や卵などの動物性脂肪の取り過ぎに注意し、野菜、キノコ類、海藻などに多く含まれる食物繊維、青魚の魚油に多く含まれるEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸や大豆製品などを取るようにするといいでしょう。果物も食物繊維を多く含みますが、果糖が中性脂肪を上げる働きをするので取り過ぎには注意が必要です。
食べ過ぎることが多い方は高トリグリセライド血症(中性脂肪が多い)になりやすい傾向があります。糖質の多い穀類、清涼飲料やアルコール、甘いお菓子類の飲み過ぎ食べ過ぎには注意が必要です。
低HDLコレステロール血症(善玉コレステロールが少ない)方は、マーガリンやショートニングや、それらを原材料にしたパンやケーキなどに含まれるトランス脂肪酸の摂取を控え、リノール酸やアラキドン酸の摂取を減らすために植物油は過剰に取らないように注意しましょう。低HDLコレステロール血症には軽い有酸素運動が効果的なことがわかっています。適度な運動は減量に有効なだけでなく、中性脂肪を減らすのにも効果的です。生活習慣病改善策には欠かせません。当然ながら禁煙し、できるだけ受動喫煙も避けるのが望ましいといえます。

脂質異常症の治療薬

脂質異常症の治療薬には、おもにLDLコレステロールを下げる薬(スタチンなど)や、トリグリセライドを下げる薬(フィブラート、EPAなど)があり、個々の患者様の症状にもっとも適した薬を処方します。ただ、筋肉痛や肝障害などの副作用が出ることがありますので、服用中に異常があった場合には、直ちに医師に相談するようにしましょう。

糖尿病

糖質が消化吸収されて血糖(ブドウ糖)として血液中に放出されると、インスリンというホルモンがすい臓のランゲルハンス島から分泌され、血糖を筋肉や臓器に取り込んでエネルギーとしたり、肝臓などでグリコーゲン(貯蔵多糖)が合成されるのを促進したりします。
こうしたインスリンの働きで血糖の血中濃度は一定に保たれています。インスリンの働きが何らかの原因で阻害され、血液中のブドウ糖を処理しきれなくなると、血糖値の高い状態が続きます。一定程度を超えると高血糖の状態になり、糖尿病と診断されます。
糖尿病には1型と2型があります。1型は自己免疫によってすい臓のランゲルハンス島のβ細胞が破壊されてしまうことでインスリンが分泌されなくなり、血糖値が上がってしまう病気です。生活習慣病としての糖尿病は2型で、おもに生活習慣の乱れによってインスリンが出にくくなったり効きにくくなったりして血糖値が高くなります。日本では、成人の糖尿病の約95%が生活習慣による肥満や運動不足等が原因となる2型です。
血糖値が高い状態が続いて血管が傷つくことで、糖尿病神経症、糖尿病網膜症、糖尿病腎症の三大合併症などにいたり、手足の切断が必要になったり、失明したり、人工透析が必要になったりします。

糖尿病の治療

糖尿病は完治できる治療法がありません。食事療法、運動療法、薬物療法の3つを組み合わせて合併症を抑えながら、患者様のQOL(生活の質)をできる限り維持していくことになります。

食事療法

糖質を抑えて適切な分量で必要な栄養を摂取できるようコントロールします。血糖値を下げる食品だけを食べればいいというわけではなく、栄養バランスに偏りのない食事が理想です。外食や間食など糖質のコントロールが難しい食事や、アルコールなどの摂取には注意が必要です。

運動療法

運動療法には、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動と、筋トレが有効です。有酸素運動で筋肉への血流が増えるとブドウ糖が細胞内に取り込まれインスリンの効果が促進されて血糖値が下がります。筋トレで筋肉が増えることでもインスリン効果は高まります。ただし、運動療法は継続しないと効果が続きません。
また、合併症がある方、ほかの病気がある方は、運動に制限がある場合がありますので、事前に医師に相談し、適切な運動プログラムを設定して体を動かすようにしましょう。

薬物療法

血糖を下げる経口薬とインスリン注射があります。2型糖尿病では食事療法や運動療法で血糖値が改善されない場合に使われます。インスリン注射は不足しがちだったり、効かなくなったりしているインスリンの作用を補い、さらにすい臓を休めることもできるため、とても有効です。

高尿酸血症(痛風)

高尿酸血症(痛風)は、血液中の尿酸の濃度が高くなる病気です。高尿酸血症の状態が長く続くと関節の中で尿酸が結晶となって関節炎が生じることで激しい痛みを感じる痛風発作が起こります。足の親指の付け根、足首、膝などの関節が赤く腫れて痛み出します。激烈な痛みで歩行困難になることも多いのですが、10日ほどで軽快します。当初は年1、2回程度の発作でありますが、放っておくとやがて頻度を増してきます。
尿酸は体内のプリン体が代謝されることで生じます。プリン体自体はエネルギー源でもあり、細胞の核酸を構成する必須成分です。しかし、食生活の乱れや運動不足などから内臓脂肪が蓄積すると脂肪細胞からたくさんの遊離脂肪酸が分泌され、それが肝臓に運ばれてプリン体の代謝が過剰になり、その老廃物の尿酸が血液中に増えることで高尿酸血症になります。
高尿酸血症は3つの病型があります。

    • 尿酸排出低下型(腎臓からの尿酸の排泄が悪い)
    • 尿酸産生過剰型(尿酸が過剰につくられる)
    • 混合型(尿酸排泄低下型と尿酸産生過剰型が混在)

高尿酸血症(痛風)の治療

 尿酸降下薬

痛風発作がある場合には、まず関節炎の治療を行います。痛みを和らげた後、根本的な原因である高尿酸血症の治療をするため、尿酸降下薬を投与します。痛風発作の既往のない方でも腎機能障害や痛風発作を予防するため、血清尿酸値が8.0mg/dl以上で肥満、高血圧、脂質代謝異常、虚血性心疾患、糖尿病などメタボリックシンドロームを呈している場合、血清尿酸値が9.0mg/dl以上の場合には、積極的に治療を考慮する必要があります。
尿酸降下薬は尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、混合型の病型を鑑別し、成因に合った薬(尿酸排泄促進薬か尿酸生成抑制薬)を選択します。薬の服用は長期にわたり、尿酸値のコントロール状況と副作用チェックのために定期的に血液検査、尿検査を行う必要があります。痛風発作中に尿酸降下薬を服用すると関節炎が悪化、長期化することがあるため、痛風発作が消えて2週間後くらいから、徐々に量を増やしていきます。また合併症がある場合はその疾病の治療も併せて行い、虚血性心疾患や脳血管障害など生命をおびやかすような重篤な疾病が発症しないようにします。

尿路管理

痛風患者は酸性尿(尿pH6.0未満)であることが多く、尿路結石ができやすく腎機能障害のリスクを高めます。尿酸排泄促進薬を内服する場合には、同時に尿をアルカリ化する薬も服用します。

生活習慣の改善

適正なエネルギー量を摂取することで肥満を防止し、アルコール類、果糖、プリン体の取り過ぎに注意します。プリン体が多く含まれる食品には、レバー、白子、エビ、イワシ、カツオ、干し椎茸などが上げられます。ただし、高プリン体含有野菜や高タンパク食は痛風発症には影響しない、乳製品やコーヒー、ビタミンCの摂取は痛風抑制作用があるともいわれています。
尿酸が排出しやすいように水分を多く摂取して1日の尿量を2リットル以上にすることも推奨されています。ただ、心疾患、腎疾患がある場合には医師と相談してください。
過度の無酸素運動は尿酸値を上昇させることがわかっています。高尿酸値血症の治療の観点からは、苦しくなるような負荷のかかった筋肉強化、瞬発力を要する運動は好ましくありません。